■レーシック知識/レーシック後の視力維持は本人次第ブログ:2014/7/08
「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それは母の認知症を決定づけた一言だった。
姉貴やいもうとからは、
最近母が少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れた私は、あまり気にもとめていなかった。
九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一ばん、酢水に一ばんつけ…
一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…
そして
しばらく置くと、
子どももお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。
母の味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
母自身もそれをわかっていた。
だから私が実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。
いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、母の記憶から消えた。
たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
母の中で一体何が起きているんだろう?
父が亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…
今はまだ、
母の中に私達はいるんだろうか?
私達の笑顔は母に届いているんだろうか?
私達の想いは…
忘れんぼうになった母は
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。
母のシワシワになった笑顔の中に
私達がいつまでもいられますように…
「ありがとう」は、私達の方だよ。